小説は平穏で淡々とした状態をただ描くだけでは、おもしろさが感じられない味気のない作品となってしまいます。では、物語をおもしろくしていくにはどのようにしたらよいのでしょうか。
気持ちを高揚させるような起伏をつけ、感動を呼ぶクライマックスを迎える物語は、読者を引き込ませる力があります。ここでは躍動感を添えながら、物語に大切なメリハリをつける方法、緊張感のある起伏を織り込む考え方をお伝えします。
メリハリのつけ方
あらすじまでできあがったところで、メリハリのつけ方について考えてみましょう。そのあらすじが平坦で淡々としていると思ったら、そこに話の山場をつくります。それには主人公に緊張、衝撃、動揺、挫折、などを与えましょう。それによって、主人公の驚き、忍耐、恐怖、幸せ、喜びなどを覚えた感情を吹き込むのです。
表面上の喜怒哀楽を吹き込むだけでなく、深刻なアクシデント、絶望、感動などで感情を高揚させ心に訴えるような場面をつくようにしましょう。
短編を一例に
あらすじ
江戸の中期、空巣ばかりを繰り返す夫婦のもとに生まれた双子の兄弟の大助と小助。人としての道をそれた「悪」の概念を生活を通じて徹底的に叩き込まれる ➡️ 子どもの頃から二人とも平気で人をだまし、盗みや暴力を働く人格を持つようになる ➡️ ちまたでも恐ろしい双子の兄弟として恐れられていた ➡️ ある時、二人は偶然にも双子の姉妹と知り合い、意気投合。姉妹は根っからの善人体質で男顔負けの腕っぶしの強い気質だった ➡️ あるとき、小助、大助の二人は恨みを持たれた人物から、殴り殺されそうになるが、ある姉妹から助けられて、このとき人の親切を初めて身に染みて感じる 👈 一つ目の山場
姉妹との付き合いによって、人間の徳、人類愛に価値を見出すようになる ➡️ だんだんと善を考えるようになった二人は、ある時、組織の権力者から殺人の依頼を受ける ➡️ 心を入れ替えようとしていた二人は相談しつつも悩み、葛藤を抱くが、権力者からの圧力で依頼は断れそうにない 👈 二つめの山場
二人で話し合った結果、兄の大助が殺人を果したことにして、二人で権力者にその報告をした後に、一気殺してしまうことにした ➡️ 権力者を仕留めることに成功したが、側近に兄の大助は殺されてしまう ➡️ 両親の支配から抜け出すことができない弟の小助も悩み疲れて結局、自ら命を絶ってしまう 👈 クライマックス
一つ目の山場
命拾いをした二人は感謝の念から、姉妹に優しさと人情を感じ、彼女たちの生き方、信条に対して感動を得ている設定です。
二つ目の山場
姉妹から影響を受けて善悪をわきまえ、正しく生きようと道徳観を改め、集団(共同体)や社会における理を識るようになった二人が、権力者に反発することができずに悩み抜く場面です。
クライマックス
生きている間に悪行を重ねたことは、最後は自分の身に報いとなって、必ず返ってくる因果応報を説く結末となります。
メリハリをつけるときは、ストーリーの自然な流れを加味し、辻褄を合わせます。かつ敵対者を作ることによって、感情を昂らせるような山場を設定しています。物語では必ず主人公にかかる重大事件などを設定し、それを克服する過程を描くことはひとつの鉄則として定着していますね。
緊張感の加え方とポイント
緊張感が加わる例
小説は人間の気持ちや行動を描く物語です。登場人物、あるいは読者が抱く緊張感を話の中で考えることは大切で、特に主人公の気持ちを変化させることで、話のおもしろさに差が現れます。
直接的な人が成す表現だけでなく、間の取り方、その場の空気感、顔の表情、また風景の描写において不吉または吉事な予兆を連想させる表現を入れていくと、一層効果を増します。また、これらの描写をすることは文章上に味わいやキレが表現できて、緊張感を引き立てることにもつながります。
【緊張感を加えた例】
●「自分のしでかしたことを、いつ見破られてしまうのか一郎は気が気でなかった。そして、相手の次の一言が彼の表情を豹変させた」
●「母からの一報で、部屋の空気は一瞬にして張り詰めた。そして、彼の発する声はわなわなと震えていた」
●「後ろから車両が猛スピードで突っ込んで来て、その場は緊迫した状態に包まれた。わたしの意識は瞬時にしてなくなり、目の前が暗くなった。地面に足をつけている感覚はすでになく、肉体と魂が自分から離れていくような気がした」
一番目の例は直接本人の気持ちを表現しています。人の感情によって、緊張感が高まっていることがわかります。
二番目は、部屋の空気感と彼が声を発したという状態に絡めて、周囲の環境・状態を描写して緊張感を醸し出しています。
三番目はどうでしょうか。本人の気持ちと状態の描写を織り交ぜていますので、事故に遭ったその時の状況を克明に想像することができます。
緊張感を入れるポイント
ストーリー全体の構造のなかで、数カ所程度の緊張感を盛り込んでみてください。あまり頻繁に取り入れても、逆にアクセントとしての役割を失ってしまいます。物語の長さと緊張感の程度にもより、回数などは限定できるものではありませんが、頻繁に挿入させて、読者に「またか」と思われるような話のつくりにすることは避けるようにしましょう。
例えば、主人公が敵に遭遇する場合は、緊張感が増し、やがて対立する流れになります。そして、敵を倒すと緊張感から解放され、そこには主人公にとっての平和が訪れるというような単純なストーリーでも、最初の緊張感の高まりと最後のテンションの昂りで、単純に考えても2回は入っていることになります。
起承転結の形式に沿ったストーリーでは、最低限「承」の場で緊張の場面が起こり得ますし、「転」ではストーリーの展開に波をつくるためのきっかけとして、緊張感のある場面を挿入することが多いです。場合によっては、せわしない展開をあえて創り出すために「起」「承」「転」「結」のすべてに緊張感を入れたりすることもしています。
リズム感のある文章は読まれる
言葉のリズムとは
文章のリズムに特長を持たせた文体は、比較的簡潔な構成でスラスラと読みやすくなります。そして、話の筋が頭に残りやすく、読者の気持ちを引くことができます。
ぶらりと両手を垂げたまま、圭さんがどこからか帰って来る。
「何処へ行ったね」
「ちょっと町を歩いて来た」
「何か観るものがあるかい」
「寺が一軒あった」
「それから」
「銀杏の樹が一本、門前にあった」
「それから」
「銀杏の樹から本堂まで、一丁半ばかり、石が敷き詰めてあった。非常に細長い寺だった」
「這入って見たかい」
「やめて来た」
「その外に何もないかね」
「別段何もない。一体、寺と云うものは大概の村にはあるね、君」
「そうさ、人間の死ぬ所には必ずある筈じゃないか」
「成程そうだね」と圭さん、首を捻る。圭さんは時々妙な事に感心する。
……
夏目漱石『二百十日』(新潮社)
会話がにテンポ感があって、トントン拍子に進んでいくのがわかりますし、簡潔な会話調ですから、とてもリズム感があって読みやすくなっています。この先、さらにこの会話は進展していき、話がさらに拡大されていくようになります。
言葉にリズムをつけるには
言葉にリズムがあるということは、読んでいくテンポが上がることになりますので、文章にするには工夫が必要になってきます。リズムをつけるときは、次のことに気を付けて読みやすい文章にするように心がけましょう。
●難しい文章は避ける
●なるべく短い文章でつないでいく
●文章の語尾のパターンを複数回同じにする 例:「~は~らしい。そして~はまた~らしい」、「〜だろうか? はたまた〜なのだろうか?」
●韻を踏む。似た響きを繰り返すことでリズムが生まれる 例:「かっぱやっぱひっぱたいた」、「アーメン、ソーメン、ヒヤソーメン」「おたふくまんぷくいっぷく」
●体言止めを適度に使用する 例:「すると、いきなりお茶目な素ぶり」、「表情がいくらか和らいでいる様子」、「~であるとは、もはやこれまで」
まとめ
メリハリは大きなアクシデントを与える
絶望などの困難を主人公に与えて読者の気持ち高揚させる場面をつくりましょう。度の過ぎない喜怒哀楽を吹き込むのも効果的です。
敵対者の設定
主人公に対して行く手を阻むような敵、あるいは人物ではなくて課題、困難を設定することで、主人公がそれらに立ち向かう姿勢を持たせると、物語が白熱してきます。ストーリーに読者の気持ちを高揚させる手法です。
緊張感の加え方
登場人物が行動する表現以外に、間の取り方の工夫、その場の環境や空気感を描写することで、緊張感を出すことができます。また登場人物の顔の表情、あるいは風景などに不吉または吉事な予兆を連想させる表現を加えると同様の効果が期待できます。
緊張感の挿入はほどほどに
緊迫した場面を入れすぎると、読者はそのパターンに飽きを感じてきます。あまりに切迫したストーリーにし過ぎるのは控え、緊張した場面と楽しさを描いた場面のバランスをとりましょう。
言葉にリズム感を与える
言葉のリズムや抑揚により文章が読みやすくなります。話の筋が読者の頭に残るようになり、印象を鮮明にさせることができます。
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