物語のある箇所で話の筋を何の前触れもなく唐突に表現するのではなく、その部分があとに現れる気配をあらかじめほのめかしておく方法があります。話の展開を想像させる糸口となる伏線を張る手法はほとんどの小説家が多用しているところです。物語の流れをおもしろくするにはとても効果的ですので、小説を書く際の有効的な手段として実践してみてください。
伏線とは?
物語で後述しておかなければならない事件・問題点などを暗示するために、その前段でそれとなくほのめかしておくことを「伏線を張る」、または「伏線を敷く」と言います。小さいことから重大なことまで幅広く多用することが多く、読者を物語の世界に先行的に誘ったり、想像力を働かせて先行きを連想させることができます。
物語のクライマックスに向けて主人公が巻き込まれる事件・問題点が起きそうな場面を少し匂わせたり、その先に起きる出来事を暗示する場合などに使用されます。人が発する言葉・態度、そのほかには周囲の状況、空気感からも伏線を張ることがあります。
伏線を張った場合、その後の流れが不自然な設定にならないように注意しましょう。読者の想像と食い違いが生じると、不信感を抱かせることになりかねません。プロット作る段階で矛盾などが起こらないように伏線と回収(後述)のしかたををしっかり組み立てていくようにしてください。
伏線を張る効果はその物語のおもしろさを左右し、創作した意義を形づける重要な手法になりますので、他の作家の作品などを研究をし、マスターしておくことをおすすめします。
伏線の回収
前もって、本文に張っておいた伏線がその後の展開に活用されたときに「伏線を回収する」というように言っています。伏線が張られた内容が後半で明らかになる、種明かしがされるような場合です。
伏線の回収の手法は、ストーリーのなかで伏線を点在させて、重要な展開や結末にすべて結びつけ、視聴者や読者を納得させることができればその伏線の張り方は成功したと言えるでしょう。
伏線と回収の例
後々のことを匂わせておくということは、二つ以上の描写が見えない糸でつながれているようなイメージと考えてください。間接的に伏線を張った場合には、読者が「あのことが、ここにつながっていたのか」とあとになって気付くところに読者は面白みを感じますし、始めの伏線にほのかに後に起ころうとしている結末をにじませておくと、後の展開に期待を持たせることもできます。
また、小さな伏線を張る頻度を増やすことで、緊張感の持続を維持でき、段階的に伏線を張って、次の展開や結末に持ち込んで読者のワクワク度をエスカレートさせることも可能になります。
●「主人公Mはとても人が良く、相手を思いやることを忘れずに常に人を性善説に立って見る性格であった」 ➡ 「あるとき、MがSNS で50万円の高額の商品の購入代金を支払いした途端に、事業者の身元が不明となり音信不通となった。『そんなことはないはずだ』と思い通していたが、最後の最後になって詐欺に巻き込まれたことを自覚し始めた。人間の善悪における奥深さを身に染みて思い知らされたのである」👈一般的に使用される例
●「ボサボサの髪をしている太郎はいつもボリボリと頭を頻繁に掻く癖があった」 ➡ 「殺人現場である被害者の机の上には多量の頭皮が落ちており、少なくとも太郎のいた可能性がある」👈ミステリーなどに使用される例
●「三歳の娘が三度の食事とおやつの時間のたびに『“へび”と“ごま”は嫌い!』と普段から言い出すようになった」 ➡ 「しばらく両親は何のことを言っているのかわからなかった」 ➡ 「ずっと後になって、父親がバナナ、母親がイチゴを食べているときに、それは初めて気が付いた。“バナナの皮の下にある細長いスジ”と“イチゴ”の周りに付いたタネだったのだ」👈その時点では謎が残る例
●「警察官のAは非番の日に都内のカフェで考え事をしていた。すると隣の席で話をしていた二人組の怪しい中年が『コンビニに強盗に入る計画』の相談を冗談交じりにニコニコしながら語り合っているのを聞いたことがあった。様子から見て具体的な犯行には発展することはないだろうと思っていた。」 ➡ 「しばらくしてその3か月後に、都内の宝石商で金品が盗まれる強盗事件が発生した。Aはたまたま自宅でそのテレビ報道を見ていたが、犯人は逃走中でまだ捕まっていないようだった。自分の勤務する管轄なのでとんでもない話だと思いながら聞いていた」 ➡ 「その報道のさらにひと月後、犯人はさらに他の宝石商を狙い、その事件はAが担当することになった。あるとき犯人を追い詰めたところ、カフェにいた二人組に間違いがなかった。そのあと格闘の最中にAは犯人の凶暴性から負傷する事態に陥った」👈段階的に主人公に関わる事件に発展する例
伏線を張る注意点
軽易な伏線を頻繁に張りすぎるのはかえっておもしろさを引きだすことができません。突然の思いつきで本文中に張るのも、その後の辻褄の合わなくなる原因となることがあります。
また、曖昧な伏線は返って読者の不審を招きやすく、不明瞭でぼやかした内容の張り方も逆効果になり兼ねませんので注意しましょう。
使用しすぎない
伏線が頻繁に貼られると、読者は逆にそのパターンにうんざりしてしまいます。頻度を増やさなければならない事情がある場合は、ユーモア性を取り入れたり、文章表現上で読者を飽きさせることがないように工夫をするようにしてください。
伏線を張る重要度の判断を取り違えない
伏線の回収で、「ふ~ん」くらいの読者の反応ですと、効果は薄いと思わなければなりません。それは、前半に張った伏線が露骨にその後の事件・問題点を連想させてしまっていることが多いためです。こうなると、読者はあらかじめこの後の展開を推測できてしまうことになり、読者の楽しみは激減します。
後に起こる事件・問題点の重要性を慎重に見極め、さらけ出す度合いを調整し、バランスのとれた伏線を張るようにしましょう。
あまり、先のことが予測できるような大胆な伏線を張るよりも、次の引き金として間接的な匂わせ方をさせるほうが効果的です。その時点で読者が完全に推測できてしまうような大胆な伏線の張り方は避けたほうが賢明でしょう。
そうは言っても、上記の考え方は一般論です。実は一概に言えるものでもなく、物語の展開の状況によって大胆に描写しなければならない場合も生じてきます。
内容のあやふやな伏線は張らない
読者に伏線の効果を後で納得してもらうためには、回収とのバランスを取ることが大切です。描写内容が不明瞭だと読んでいてモヤモヤ感がつのり、敬遠されてしまうことにもなりますので、抽象的だったり、ぼんやりとした描写はしないようにしましょう。
その場の状況をクリアに表現したり、登場人物の行為は何によるものなのかなど、原因、理由を示しておくことです。ある事象を描写したときに、「何があったのだろう」と読者に疑問を抱かせたいようなケースはこの例外として使用してください。
話の一貫性を崩さない
その場で思いついた伏線を張ることはストーリーの矛盾を招き、違和感を感じる要因ともなってきます。できるだけ、プロット作成の段階で伏線を張る計画をするようにしてください。もしもそのような不自然で場違いな状況に陥ったと気が付いた段階で、できるだけ早く修復することが肝心です。
その場合は、一定の箇所まで戻って読み直し、せっかく書き足してきた本文ですが削除しなければならないことも充分に起こり得ます。実際に編集者と校正のやりとりをするときには、思いきった削除を求められることが頻繁に生じるのです。
数十字、数百字を削除することに対して、「せっかく書いたのに」などと惜しがったり失望したりすることはありません。早い段階で違和感に気づいて修正する精神こそが大切になります。
小説家であれば、書き換えることでより素晴らしいものを書く意識を持つようにしましょう。毎日書き続けることで、書く意識や技術が向上し、自分でも気付かないうちに少しずつ進歩・成長しているはずです。
なるべく遠い位置に張る
伏線と回収の場が正しく配置されると、後で「この結果はあのときの出来事によるものだった」と納得し、感動が得られる効果があります。これは伏線と回収が遠い位置に配置されたときに読者に驚きや納得感を与えることができると言われています。
伏線と回収の関係を例えば同一章、次章くらいの近い位置に置いてしまうと、読み返してみても著しい感情の変化が起こらないことを日頃から書き続けているなかで実感するようになりました。以前にこのようなケースで思いなおして、地文を相当書き直したことがあります。以降はこのことを強く意識して、なるべく物語の後半に回収することを心掛けるようにしています。
伏線の効果
あとから起こるハプニング、事件を「あの時にあったことが原因で、最後はこう展開したか……」と読者に合点のいく流れをつくることができます。それらは、読者の気持ちを物語に引きつけることになり、その物語のファン層の拡大につながっていくことになります。
事前にほのめかすことで読者が先の展開に納得できる
急な展開で読者を驚かせるよりも、事前にこれからのことを匂わせておくと、物語全体の緊張感の持続や、読者の関心を引き立たせる役割があります。
効果的に伏線を張ることで、あとの回収の段階では読者の納得が得られ、感動が生まれるようになるでしょう。
読者の期待を裏切ることのない展開に持ち込める
次第に物語がエスカレートし、クライマックスに達したにもかかわらず、そこで読者の期待を裏切るような設定だけはしたくないものです。伏線を張って得られる最大限のメリットは書き続けていくうちに感覚的につかめてくるはずです。
そのためには読者の立場に立ち、読み手の感情の変化を考えることを忘れないようにしてください。そのことを意識して書き進めていけば、伏線を張るテクニックについては自然と理解が深まり、身についていくでしょう。
読者の感情を高揚させることができる
ある事実の真相に迫るときに、問題を解決できる糸口を読者に考えさせるような場をつくってみるのがいいと言われています。それが達成されると読者は満足感を得ることができ、大きな感動による感情の昂りが起こります。そうした物語はその読者にとっては、何度でも読みたくなる良書と言えるのです。
伏線と回収のまとめ
手法
細かな使用のし過ぎを避ける
頻繁に繰り返す伏線のパターンは読者は飽きてしまいますので、ほどほどにしましょう。
伏線の重要度の判断を適正に
後に起こる事件・問題点の重要度に見合った、バランスの取れた張り方をするようにしましょう。
なるべく具体的な描写をする
ぼんやりとした描写は読者のモヤモヤとして気持ちを駆り立ててしまうため、その場の状況のクリアな描写に努めてください。人の行為や物事の発生は何によるものなのかなど、原因、理由を明確に示しておきましょう。
物語の全体の一貫性を保つ
思いついた伏線を張ることはストーリーの矛盾や違和感を生じさせることがあるため、できるだけ、プロット作成の段階で伏線を張るようにしましょう。
なるべく回収する場と遠い位置に張る
伏線と回収が遠い位置にあると、読者の驚きや納得感を増大させることができます。
伏線を張る効果
事前にほのめかすことで読者が先の展開に納得できる
先の物語の流れに沿って効果的に伏線を張ることで、その後の回収で読者の納得が得られ、感動をもたらすことができるでしょう。
読者の期待を裏切ることのない展開に持ち込める
読者の視点に立ち、「読み手の感情の変化」を考慮すれば、読者の期待を裏切ることのない伏線の設定ができるようになります。
読者の感情を高揚させることができる
読者が自ら課題を解決できる糸口を得られる機会をつくるなどして、問題解決ができるような設定をすることで十分な満足が得られ、大きな感動を呼び起こすことができます。