小説の書き方における基本的なルール~文章表現から視点の置き方まで~

物語の方向性をイメージする

小説を書く作業を進めていくと、一定の書き方のルールが定められていることに気づくと思います。すでに小説を書くことを生業とする方や小説を読んでいる方はわかっていることです。ここでは、基本的な書き方について再確認をしていきたいと思います。

文章表現上の基本的ルール

まず、小説風の文章例を取り上げ、この描写での正しいルールを具体的に確認しましょう。

 太郎はどうしようかと悩んだ。しばらく黙って下を向いていた。太郎は友人の祐作にとうとう苛立ちを覚えて、顔を真っ赤にして次郎を罵った。今にも吠え面をかきそうな顔つきであった。                                    「なっ、なんで、おまえはそう俺ばかりを目のかたきにするのだ! 連日、俺の荷物が隠されているのは知っているぞ――。目撃者がいるからちゃんとわかっているんだ。白状しろよ」                                      「えっ……? はて、何のことやら? 知らんなあ、そんなことは」               「とぼけるな! この野郎」
 祐作がにやけ顔で太郎をあざけた姿を見るやいなや、太郎はカッとなって祐作の両肩を強く押した。                                        「ウーッ」
 鈍い叫び声とともに身体は安定しなくなり、そのまま床に尻もちをついたかと思えば、その反動で横のロッカーの角にゴチッと頭を強くぶつけてそのまま気絶した。真っ青な顔をしつつ周囲の他の生徒の数人が事態の恐ろしさを感じつつも、祐作に駆け寄って抱きかかえようとしたが、反応は何もなかった。
                   (*既存の作品ではなく、この場限りの例文です)
この例文にはいくつかのポイントが含まれています。一つひとつ次に挙げて説明していきましょう。

地の文の行頭はひとマス空ける

段落の書き始めの行頭は一文字分の空白を挿入します。一つの文章段落が終わって次の段落に改めるごとに、一文字分の空白の挿入をします。
上記例文では👇 
太郎はどうしようかと悩んだ。
祐作がにやけ顔で太郎をあざけた姿を見るやいなや・・・
鈍い叫び声とともに身体は安定しなくなり・・・
ただし、冒頭または行頭に「 」の表記をする場合には、冒頭または行頭では、一文字分空けずに表記します。
上記例文では👇 
「なっ、なんでおまえは・・・。白状しろよ」
●「えっ……? はて、・・・」
「とぼけるな! この野郎」
「ウーッ」

「 」の最後には句点(。)は入れない

会話文中の最後の文末には句点(。)は挿入しません。
上記例文では👇  
「なっ、なんで、(…中略…)薄情しろよ」
「えっ……? はて、何のことやら? 知らんなあ、そんなことは」
「とぼけるな! この野郎」
「ウーッ」
会話文の中に二文以上ある場合は、最後の末尾の文のみ(。)を挿入しません
上記例文では👇 
「なっ、なんで、おまえはそう俺ばかりを目のかたきにするのだ! 連日、          俺の荷物が隠されているのは知っているぞ――。目撃者がいるからちゃんと          わかっているんだ。白状しろよ」

ダッシュ(――)

わずかな時間的余裕を表すときに使用し、通常は二文字分の長さ(――)で表記します。
上記例文では👇 
「(前略)連日、俺の荷物が隠されているのは知っているぞ――。目撃者がいるからちゃんとわかっているんだ。白状しろよ」 

三点リーダー(……)

三点リーダーは沈黙や余韻を表すことが多く、通常は一文字三点(…)を二文字分(……)で表記します。
上記例文では👇 
「えっ?……、はて、何のことやら? 知らんなあ、そんなことは」

疑問符(?)と感嘆符(!)

疑問符や感嘆符のあとには「句点(。)」は打ちません。また、疑問符、感嘆符で文を終えた後に継続して文を続ける場合は、一字分の空白を挿入してから続けます。
上記例文では👇 
「えっ……? はて、・・・」(疑問符)         
●「とぼけるな! この野郎」(感嘆符)
「なっ、なんで、おまえはそう俺ばかりを目のかたきにするのだ! 連日、俺の荷物が隠されているのは知っているぞ――。目撃者がいるからちゃんとわかっているんだ。白状しろよ」(感嘆符)
半蔵
半蔵

例えば、Wordで執筆する場合ですが、縦書き、横書きに関わらず「 」の会話内の句読点 “、”や文末の最後の“?”、“!”、また後ろ側のカギかっこ “ 」”が文字数の事情で行頭にきたとしても、自動で詰めて行末に押し込んでくれるので、とても便利です。

オノマトペ

擬音語

外界の自然の音や動物の鳴き声、人の叫び声などを模した言葉を擬音語と言います。上記の例文では “ ゴチッ ” が擬音語となります。そのほかに、“ ザワザワ ” 、“ ドンドン ”、“ ガヤガヤ などが擬音語の例として挙げられます。

擬態語

事物の様態を言語音によって象徴的に表す言葉が擬態語です。例文のなかでは “ カッ ”が該当します。他の例としては “ ドキドキ ” 、“ ワクワク ” 、“ ニコニコ ” など日常の様々な様子を擬態語で表します。
オノマトペを使ううえで気を付けなくてはいけないのが、読者に伝わる的確な表現を選んで使うということです。その音が何を表現しているのかを確実に読者に伝えなくてはなりませんので、本当に表現しなくてはならない場合に留めることをおすすめします。擬態語は最小限に留め、具体的な言葉で表現していくようにしましょう。

【例】 「ガンガン」

頭の痛いときや、目標に向かって進むときに「ガンガン」という擬音語を使いますが、何が「ガンガン」するのかこの言葉を補足するようにしましょう。あるいは、擬音語を使わずに他の言葉で言い換えると次のようになります。

“ 今の自分には何をやっても失敗する気がしなかったので、この勢いでガンガン突き進んでいきたかった” 👈言葉を補足

“ 今の自分には何をやっても失敗する気がしなかったので、猪突猛進ちょとつもうしんあるのみだった” 👈言い換え

単語の表記

ひとつの単語を漢字で表記したときに、その小説の性格から漢字で表記するのにためらいや違和感を感じるようなことはありませんか?

そのような場合は、ひらがな表記にすることでまったく問題はありません。

物語の状況によって、堅苦しい場面では漢字を使い、和やかなムードではひらがなを用いるなどの工夫をしてください。

また、一人称で書く小説では、「私」、「僕」などで自分を名乗りますが、語り口調や話の流れを勘案して「わたし」、「ぼく」で表記するのもありです。他の例を挙げてみると、「~の時に」を「~のときに」に「その後」を「そのあと」に「ご挨拶」を「ごあいさつ」などと表記して構いません。

その単語を物語を通じて使用するケースでは、物語が終るまで文言の表記を変更をしないほうがいいものと、しても問題ないものがあります。上記の例では前者が「私」、「僕」、「わたし」、「ぼく」、後者が「~の時に」を「~のときに」に「その後」を「そのあと」に「ご挨拶」を「ごあいさつ」がその場の状況に応じて変更がOKな例となります。

登場人物の名前の表記は一貫性を持たせるために、継続して同じ表記をし、その他の単語はストーリーの環境で変えることもできます。後者ついては、統一しなければならないというルールはありません。

半蔵
半蔵

単語の表記は漢字、ひらがなを多様に使い分けをすることで、読者に与える印象を変えることができます。そのため、過激な表現では漢字、平穏な状況ではひらがなを用いて描写の工夫をするようにしています。

男性性、女性性の表記

人物に具体的な氏名を設定して表記することを考えてみます。例えば男性を「山本祐太」やまもとゆうた、「楠野果林」くすのかりんという登場人物を設定したと仮定します。名前の表記は物語が終わるまでは一貫した呼び方をしていく必要があります。

登場人物を描写したときに、はじめだけフルネームで描き、以後、氏名のどちらかを省略して表記します。男性、女性によってわかりやすく区別するために、次のように設定します。

男性性の場合

はじめだけ「山本祐太」と書き、それ以降は「山本は~」と苗字だけを表記することが多いです。これは他の登場人物に女性がいる場合に男女を明確に区別するためです。ただし、登場人物が多くない場合は敢えて名だけで表記することもあります。

女性性の場合

男性と同様にはじめは「楠野果林」と表記し、それ以降は名のみで「~と果林が」と表記します。女性は物語全体を通して名だけで表記するのが一般的となっています。

視点の問題

小説の場合は、視点が次々に変わることは避けなけばなりません。とくに三人称でそのようなケースが見られることがありますが、読みやすさの点からみれば好ましいとは言えませんので注意しましょう。

一人称で書いた場合

概ね、語り手は「私」であることが多いため、さほど視点がずれることはありません。

三人称で書いた場合

視点を一人の人物に統一した文章にする必要があります。複数の人物が登場する場合には、その場面ないしその章においては、特定の一人の視点で書きましょう。視点がバラバラになると読者は読みづらくなります。

【例】

佑太は隣にいる果林を好意的に感じていた。それに気づかない果林はその場のイルミネーションの輝いた素敵なムードだけを望んだ。 ➡ 佑太は隣にいる果林を好意的に感じていた。自分に無頓着な果林はその場の嬉しさのあまり、感動に満たされているようだった。

意外に書いていて気づかないのが、文章上の視点が定まらないことでの “ 読者の混乱 ”です。より多くの読者に読んでもらうために、推敲の段階でのチェックを忘れないようにしましょう。

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