プロットでの状況とせりふの設定方法~物語の目的とキャラクターの心理を生かした表現~

プロットをつくる

小説を書くとき、シーンごとの「状況」と「せりふ」の設定は、物語の魅力を大きく左右します。この記事では小説を書く際に、各シーンの「状況」と「せりふ」を効果的につくり上げるポイントをまず示します。そのうえで、プロット上で重要な「状況」と「せりふ」の設定方法を、具体的なポイントと例を交えて解説します。

「状況」をつくるためのポイント

たとえば、次の二つの文章を比べてみましょう。以下の例は筆者が執筆中に経験したプロット作成の試行錯誤から得た具体例です。

ある時、小説のプロットを練っている際に「恐怖感」を表現するシーンに悩みました。例えば、次の二つの文章を考えたとき:

1:「おい、さっきそこでおもしろいものを見たぜ」と落ち着き払いながらAは言った。

2:「聞いてくれ。いっ、今、そこで――、変なものを見たんだ」と、Aは顔を真っ青にして口は震えていた。

この二つはほぼ同じ内容ですが、印象が大きく異なります。実際に執筆中、「読者がどちらの描写により強く反応するか?」を考えながらあれこれと手を尽くしました。結果として、2番目の表現が読者に緊張感を与えるのが分かり、その描写を採用しました。

この経験から学んだことは「状況やせりふの微妙な違いが物語全体の雰囲気に大きな影響を与えるということです。

物語の目的に沿った状況を考える

各シーンではに「この場面は物語の中でどんな役割を果たすのか?」を常に意識することが大切です。例えば『アンジュレーション』には次のようなシーンが出てきます。

●主人公の居眠り

●人助けなどの場面

●嬉しいことが起きる

主人公が単に「居眠りしていた」と伝えるだけでなく、その状況が読者に伝わるおもしろさと、「そのシーンが物語全体のどこに位置していて、それがどんな意味を持つのか?」を掘り下げると、より魅力的な場面になります。

各状況が物語全体にどう影響を与えるのかを考えて書くことが重要です。単調でおもしろくないと思ったら、状況を変化させてみるのも一考です。

👉例:高校生の「居眠りのシーン」の状況を変えてみる

シチュエーション 読者の印象
大柄の学生の席の後ろに隠れて 教師に見つかりそうでハラハラした緊張感
学校の教室で授業中に堂々といびきをかいて 大胆不敵な印象
授業を受けずに保健室で 具合が悪いのかという心配

同じ授業中の居眠りのシーンでも、状況が変わると雰囲気がまったく異なり、先の展開のつながり方も変わってきます。

キャラクターの心理を反映させる

執筆活動中、自分自身の日常生活で感じた感情をキャラクターに投影することが多々あります。例えば、高校時代に居眠りしていた経験から「うっとりした寝顔」や「大きないびきを掻く」動作が自然と浮かびました。

その際、自分がどんな気持ちだったか、「周囲からどう見られていたのか」を思い出し、それをキャラクター描写に活用しています。リアルな体験から得たインスピレーションは、読者がキャラクターに共感しやすくなる要因になります。

👉 例:居眠りしている感情を状況で表現する

(NG例):「『――幸せ』」

(OK例):「『――あああ、気持ちいい。幸せ』と寝声を漏らした。」

動作やせりふで状況を伝えたほうが、読者はより関心を示すようになります。プロットに状況を書き込む場合は詳細を盛り込むことは必要ありませんが、ある程度要約された形の説明文を置くようにしましょう。

半蔵
半蔵

近年は人間の感情を豊かに表現することで、読者の心をつかみやすいことを菊池寛の作品を読んで感じましたので、採用するようになりました。

 

『忠直卿行状記』、『恩讐の彼方に』、『蘭学事始』のほか多数の作品でそのような顕著な例が見られます。会話や文中に嫉妬、陰口、苛立ち、意地、反感などの表現が入ると、一段と読者は気になり出すものです。

 

忠直卿は、生まれて初めて、土足をもって、頭上から蹂みにじられたような心持がした。彼の唇はブルブルとふるえ、惣身そうみの血潮が煮えくり返って、グングン頭へ逆上するように思った。

右近の一言に依って、彼は今まで自分が立っておった人間として最高の脚台から、引きずり下ろされて地上へ投げ出されたような、名状し難い衝動ショックを受けた。

菊池寛『忠直卿行状記』より

読者の五感を刺激する描写を加える

以前、自分が旅行先で体験した出来事が執筆時に役に立ったことがあります。例えば、「駅でギュウギュウに詰まったエスカレーター」や「混ざり合うクラクション音」は時分自身がその場で感じたリアルな五感で感じた情報でした。

この体験談から得た具体的な描写(視覚的混雑感や聴覚的騒音)は、小説内で臨場感のある場面づくりに活用しました。実際、この描写によって読者から「この場面が頭に強く残った」とレビューをいただいたことがあります。

👉例:状況の描写

●視覚:「駅の上りのぎゅうぎゅうに詰まったエスカレータで、見知らぬ者同士が激しく言い争いをしている。」

●聴覚:「駅前ではにぎやかに鳴りやまないクラクションの音と、人々が我れ先に急ぎ足で歩く音が入り混じり、殺伐とした状況で響いていた。」

●嗅覚:「ロータリーの花壇の湿った土のにおいが鼻をついた。」

●触覚:「冷たい北風が頬をかすめ、肌に鳥肌が立った。」

こうした描写を加えると、読者が場面をよりリアルに感じられるようになります。

「せりふ」の設定方法

物語に登場するキャラクターは、話の語り口調を変化させ癖をつけるなどして、それぞれの個性を出すのが通常です。皆が皆、同じ文語体で話すような設定はかなり不自然になるので避けましょう。

キャラクターの個性に合った言葉を選ぶ

キャラクターごとに固有の話し癖を加えて、それぞれに個性を持たせます。

👉例:キャラクター別のせりふの違い

キャラ
知的なタイプ 「それは論理的に考えても、おかしいね」
元気なタイプ 「えー!? マジで!? それヤバくない?」
クールなタイプ 「別に、どうでもいいじゃないか」

個性が出すと、人間同士の触れ合いの場面では、せりふを読んだだけで誰が話しているのかが伝わりやすくなるメリットがあります。

せりふの長さとリズムを考える

せりふの長さ、テンポは場面の緊張感や雰囲気を決める重要な要素になります。短いせりふは時間の経過を早める印象を持たせるときに使用しますし、長めのせりふは逆に時間の経過の遅さを感じさせるときに使われます。

👉例:緊迫感を出す短いせりふ

●「……来るな」

●「何?」

●「逃げろ!」

👉例:穏やかな雰囲気の長めのせりふ

「今日はね、授業中に気持ち良くなっちゃって、ついつい爆睡しちゃったよ。夜にね、なかなか寝つけなくなっちゃってさあ、午前中になって、睡魔がおそってきたっていうわけよ」

ダラダラッとした会話には、時間の流れを忘れさせるような効果が表れます。せりふのリズムも変化させると、キャラクターの個性が与える読者への印象も変わってきます。

せりふと状況描写を組み合わせる

せりふだけに頼らず、キャラクターの行動や状況を交えて描写すると、より深みが出ます。

👉例:状況+せりふ

(NG例):「彼は寝ていた。『――あああ、幸せ』と寝言を言った。」
(OK例):「暖かい教室の自席のまどろむ意識の中で、心地よい浮遊感に身を委ねながら『――あああ、気持ちいい。幸せ……』と寝声が漏らした。まるで穏やかな波に揺られる小舟のように、静かで至福の眠りの海を漂っていた。」

本文に書くような誇張した例ですが、状況を細かに描くと、せりふがよりドラマチックに響きます。ただし、プロットにはきちんと要約したかたちにして記載しましょう。

村上春樹さんは文章のリズムが生む心地よさについて、「文章にリズムがあれば読み続けられるが、なければ飽きてしまう」と語っています。音楽と同じように、文章にも流れやテンポがあり、これが心地よさを生む要因にもなるのです。

リズムが悪いと感じる部分は、読みにくさを覚えるため、自然と書き直したくなりますね。短文と長文のバランス句読点の工夫繰り返し表現などがリズム感を整えるポイントです。

リズムを意識するには、音読して「耳で聴く」ことが効果的で、リズム感のある作家の作品を読むことも良い刺激になります。文章を「音楽」として感じながら書くことで、読者を引き込む力が生まれてくるものなのです。

【栗山 丈 note「文章のリズム」より】

状況とせりふをプロットに落す

👉上記の(OK例)をプロットに落す例

「暖かい教室の自席のまどろむ意識の中で、心地よい浮遊感に身を委ねながら『――あああ、気持ちいい。幸せ』と寝声が漏らした。まるで穏やかな波に揺られる小舟のように、静かで至福の眠りの海を漂っていた。」

➡ 状況欄に  “ 心地よくまどろみながら寝言を漏らす ”

高校時代に自分自身が居眠りをしていた経験があります。その際に感じた「教室内特有の暖かさ」や「外から差し込む陽光」が心地よさにつながり、それがプロット作成時にも反映されました。

「暖かい教室」、「心地よい浮遊感」という表現には、自分自身の記憶が投影されていますこのような個人的な体験は、小説内でリアルな空気感や情景描写につながります。

➡ せりふ欄に 「――あああ、気持ちいい。幸せ……」

プロットを作成する段階で、地文にするべき本文やせりふを長々とプロットに挿入することは避けましょう。完成文を思い付いたときには、文章をノートやメモに書きつけておき、本文で採用します。

プロットは小説の縮図にあたるものです。本文とせりふを要約したものをプロットに挿入しましょう。全体を俯瞰して物語の骨組みをわかりやすく文章に落とし込み、執筆作業を効率化させる役割を担います。細かな状況を潜り込ませても煩雑になってしまいますので、気を付けてください。
半蔵
半蔵
プロット作成中にも本文に採用するべきアイデアは生まれます。そう思ったアイデアは必ずアイデア帳にその場でメモするようにし、それを要約してプロットにまとめています。
メモした本文はあとで加工はしながらも必ず採用するようにしています。後で思い出そうとしてメモをしようとしても思い出させなくなりますので、その時にどこかに記録するようにしましょう。せっかく浮かんだ良いアイデアは無駄にせずに活かすことです。

状況とせりふをプロットにまとめた例

今まで、登場人物、章立てについてのプロットのまとめを下記の記事でまとめてきましたが、短編『アンジュレーション』について、これらに加えて今回の状況とせりふについてまとめたものが、その下の表になります(ただし第2章まで)。

👉:半蔵 短編『アンジュレーション』(全6章のうちの2章のイメージ)

主人公:ルーズだが家の外では真面目な高校2年生、加茂吾郎

*作成手順:①シーンを順不同で書き出す ②矛盾のないようにシーン単位で並べ替える

はしがき  

【状況】世の中は三者三様で、想像もつかない人間模様に遭遇することもある。そして、山あり谷ありの世界を彷徨うのが人間である。今日も母親の小言で一日が始まる。

【主なせりふ】「今日もろくにご飯もたべないで。寒いから手袋していきなさいよ」
「わかったよ」

【登場人物:母親】

第1章 

《シーン1》吾郎は滑稽な情報を目撃

【状況】駅の上りのぎゅうぎゅうに詰まったエスカレータで見知らぬ者同士が言い合いになっている。つまらないことで哀れだと感じる。

【主なせりふ】「おい、邪魔だ。お前のリュック」「危ねえだろ」「アブねえのはお前だろ、オイこら、聞いてんのか」(吾郎:譲り合えばなんでもない話なんだがだあ)

【登場人物】駅でもみ合う二人の利用客

《シーン2》吾郎の学校の授業中での夢想・居眠り

【状況】次の週末で友人と長野に旅行する予定があり、夢うつろな気持ちでいた。心地よくまどろみながら寝言を漏らす。運悪く、国語のテキストを読む順番が巡ってきた。いつまでもボーッとしている吾郎。放課後に職員室に呼び出され、延々と指導を受けることになった。

【主なせりふ】(早く土日にならないかなぁ)「な~に、やってんだ、おまえ。お前の番だ」「いえ、あの、その……」『――あああ、気持ちいい。幸せ』

【登場人物】国語教諭

第2章

《シーン1》駅前の様子

【状況】駅前ではにぎやかに鳴りやまないクラクションの音と、人々が我れ先に急ぎ足で歩く音が入り混じり、殺伐とした状況で響いていた。

【主なせりふ】なし

《シーン2》交通事故に遭う老婦人を救助する

【状況】車との接触にギリギリのところで抱えこみ、二人が歩道側によろけたことで老婦人は無事。しばらく老人は気絶をしていたが、目を覚ました。安堵する二人。ところが老婦人は豹変。くどくどと非難・叱責を繰り返す。本人もどこも打ちどころの悪いところはなく、やっと解放される。

【主なせりふ】「危ない!」「あっ」「どうもありがとう」「ご無事でよかったです。どこか強く打ったところはありませんか?」「大丈夫よ」「でも危ない助け方ね。頭でも強く打ったらどうするのよ」
(なんだよ。命拾いしておいて、その言い方……)

【登場人物】老婦人

《シーン3》SNSでフォロワーが急に増える

【状況】スレッズの今日の有り得ない出来事を投稿したらバズり、一気に知名度がアップした。

【主なせりふ】(ウッヒャ~、すげえな~。なんだこれ)

~この先つづく~

まとめ

【各シーンの状況とつくり上げるポイント】

状況とせりふは、小説の雰囲気やキャラクターの魅力を決める重要な要素である

シーンのあとにつなげる目的を意識して状況をしっかりつくると、せりふが自然に生まれてくる

読者の五感を刺激する描写を加えると、臨場感がアップする

キャラクターごとの個性をせりふに反映させて、リアルな会話を生みだす

【状況とせりふをプロットに落すには】

本文なり、せりふはポイントを絞って要約したものを挿入する

シーンの状況、せりふを以上のように設定すると、読者の心をつかむ小説が書けます。またこのことを意識しつつ、本文とプロットに落す文を同時並行に考えておけば、あとの執筆が格段に効率よく進めることができるはずです。執筆作業できるだけ短縮させ、より洗練された小説を生み出してください。

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