物語を書くうえで、その「構成」をしっかりさせることはとても大切です。せっかく魅力的なキャラクターや設定を考えても、話の流れがバラバラだったり、読者が迷子になってしまうような骨組みだと他のアイデアを活かすこともできません。
この記事では、物語の基本構造を学び、それを活用して短編から長編に至るまでの組み立て方法を紹介します。分かりやすく、すぐに実践できるようにまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
三幕構成(最も汎用的な構成)
主人公が困難に直面し、成長しながらその解決策を探る展開 👉例:「異世界の戦争に巻き込まれ、仲間を得るが、敵も強大になっていく」
クライマックスで最大の試練を迎え、迎える結末 👉例:「最強の敵を倒し、主人公は元の世界に帰るか、新たな道を選ぶかを迷う」
各幕で大きな出来事(ターニングポイント)を用意し、読者を飽きさせることがないようにしましょう。
起承転結(日本の伝統的な構成)
ヒーローズ・ジャーニー(成長物語の王道)
●試練と仲間:迫りくる困難を乗り越えながら成長する
●最大の危機:死や絶望を経験し、大きな成長を遂げる
●帰還と新たな始まり:世界を変える英雄的存在となる
【特徴】
●主人公が冒険に出かけ、困難に立ち向かい悪役を倒し、生まれ変わって故郷に帰ってくるという流れが基本パターンとなる
●物語の筋書きの重要ポイントである主人公の人間としての変化や展開も表している
●物語論と比較神話学において、世界中の多くの民話や神話に共通する通過儀礼の構造となっている
👉例:「スター・ウォーズ」、「ハリー・ポッター」、「ワンピース」
主人公の成長を強調すると、より読者が感情移入をしやすくなります。
【発見者とその応用について】
ヒーローズ・ジャーニー(Hero’s Journey)は、神話学者のジョセフ・キャンベルが、世界中の神話や寓話を研究して導き出したものです。「モノミス理論(=単一起源神話理論)」という仮説を提唱し、物語、昔話、神話のパターンが似ているのは人間の潜在意識的な部分が共通しているためだと考えました。
映画や小説などのストーリー構成を考える際のガイドとして活用されたり、ビジネスではストーリーテリングを構成する要素の一つとして今では応用されています。また、カウンセリングやセラピー、NLP(自然言語処理あるいは神経言語プログラミング)、キャリア研修の文脈でも紹介されるようになりました。
三幕構成の活用例【著者の体験談】
三幕構成は、私自身が初期に小説を書いていたときに大いに助けられた手法です。当時、「音楽小説」を書くという独自性がまだありませんでした。何を書こうか迷い、「普通の高校生が異世界で冒険する」というテーマで物語を考えていましたが、どう書き始めればいいのか分からず、プロット作成の段階で行き詰まっていました。
ある時、基本構成の三幕構成を知り、取り入れたところ、物語の骨組みが一気に明確になりました。以下はその時に作成したプロットの一部です。
第一幕(導入)
●設定: 主人公は平凡な高校生。ある日、学校帰りに謎の光に包まれ、突然異世界へ飛ばされる。
●キッカケ: 異世界で出会った魔法使いから「この世界を救う勇者だ」と告げられる。
●ターニングポイント①: 主人公が魔法使いとともに旅立つ決意をする。
第二幕(展開)
●試練: 主人公は旅の途中で仲間を得るが、強大な敵との戦いで挫折を味わう。
●ターニングポイント②: 仲間との絆を深め、新たな力を手に入れる。
第三幕(解決)
●クライマックス: 最終決戦で敵のボスを倒す。
●エンディング: 元の世界に戻るか、この世界に留まるか選択を迫られる。
このプロットをもとに執筆した結果、初めての小説ながら読者から「テンポ感があって読みやすい」とレビューをいただきました。三幕構成は初心者でも物語全体の流れを把握しやすく、特に初めて小説を書く方にはお勧めです。
ヒーローズ・ジャーニーの実践例【独自の視点】
ヒーローズ・ジャーニーは、「主人公が試練を乗り越えて成長する」という物語の王道パターンです。この手法は私が短編小説コンテストに応募した際にも活用していました。その時に書いた作品『影と光』は以下のような流れで構成しました。
日常の世界
●主人公Wは田舎町で平凡な日々を過ごしている高校生。ある日、町外れの森で不思議な声を耳にする。
冒険への誘い
●声の正体を確かめるため森の奥深くへ向かうが、そこで謎めいた老人と出会う。この老人から「町を覆う影の正体」を探るよう依頼される。
試練と報酬
●影の正体を探る中で、Wは自分自身の過去と向き合うことになる。最も危険な場所へ接近した時には自分が影そのものだったことを知り、大きな葛藤に直面する。
最大の試練
●影として町をそのまま破壊を進めるか、あるいは自分自身を犠牲にして町を救うかという究極の選択に迫られる。
日常への帰還
●最終的にWは自分自身を犠牲にし、町と住民を救う。物語はWが消えた後も町が平穏を取り戻すシーンで締めくくられる。
この作品では、「自己犠牲」というテーマを中心に据えました。ヒーローズ・ジャーニーは単なる冒険譚だけでなく、人間ドラマや心理描写にも応用できる点が魅力です。この構成を使ってコンテストでは最終選考まで通過でき、それが自信につながりました。
独自テンプレート【読者向け】
以下は私自身がよく使うプロットテンプレートです。これを埋めるだけで簡単に物語全体が見える化できます。
セクション | 内容 |
---|---|
タイトル | 物語全体を象徴するタイトル |
主人公 | 名前、年齢、性格など |
第一幕 | 導入部分:主人公の日常と事件発生 |
第二幕 | 試練と成長:仲間や敵との関わり |
第三幕 | クライマックスと結末 |
このテンプレートは執筆前だけでなく、執筆中にも随時見直せば軌道修正がしやすくなります。また、自分だけではなく他人にも共有しやすい形なので、小説投稿サイトなどでも役立つでしょう。
実際にストーリーを組み立ててみる
テーマを決める
物語の中心となるメッセージやテーマを考える必要がありますが、テーマの決め方は
小説のタイトルとテーマについて~独自性のある表現方法を確立する~
に解説をしていますので、ご参照ください。テーマはタイトルや物語に直接表現するものではなく、読者に感じとってもらうメッセージと言えます。人物の行動やストーリーの進展を通じて描き出すようにしましょう。
👉例:「家族愛」、「復讐と許し」、「成長」、「苦しみからの脱却」、「二つの世界の対比」(横光利一『ナポレオンと田虫』)、「自然描写」(国木田独歩『武蔵野』)、「人間の妬み・嫉み」(菊池寛『無名作家の日記』)など多様なテーマが存在します。
主人公の目的と葛藤を考える
主人公の生き方を通じて、思考、意図、感情の変化などを取り入れて、目の前に立ちはだかる困難などを描写していきます。
●主人公が達成したいこと(例:「王として君臨する」、「自分にとっての真実を知る」)
●目的を阻む障害(例:「ライバル」「過去のトラウマ」)
プロットの流れのイメージ
三幕構成や起承転結を使って、話の流れを整理し、プロット作成の際にはその構造にあてはめていきましょう。上記に示したように、各章の骨組みとなるシーンをエクセル表形式に埋め込んだのが下表のイメージになります。
👉例:半蔵 短編『アンジュレーション』(全6章)
タイトル: アンジュレーション |
主人公:ルーズだが家の外では真面目な高校2年生加茂吾郎 | 手順①シーンを順不同で書き出す 手順②矛盾のないようにシーン単位で並べ替える |
並べ替えたあとのプロットが下表 | |||
章 | 節 | シーン | 状況 | 主なせりふ | 備考(伏線など) | 登場人物 |
はしがき | - | ・母親 | ||||
第1章
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-
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吾郎は滑稽な情報を目撃
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第2章
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-
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学校の授業中での夢想・居眠り
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・国語教諭 | ||||||
第3章
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-
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帰路の途中で、交通事故に遭う老婦人を救助
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・老婦人 | |||
第4章
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-
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目撃した情報をSNSで投稿し爆発的にフォロワーが増える
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第5章
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-
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担任から職員室へ授業中の居眠りした件で呼出し、叱責される
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第6章
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-
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人命救助の件で、老婦人から警察へ報告があり、捜し出された吾郎が表彰を受ける
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以上のような章単位の表に、主人公をはじめとした登場人物、シーン、状況、せりふが書き込める項目を設け、セル内を入力してプロットを完成させています。この表は設計図としての役割を十分に果たしていますので、本文の執筆が比較的円滑に進みます。
物語を面白くするには
●フックを創る
“引っかけどころ”とか“つかみ”とも言われています。冒頭で読者を引き込むための展開を用意しましょう。書き出しはその重要性や書くことの難しさがありますが、最良のアイデアを採用してみてください。
●伏線を活かす
後で「あの時の伏線なのか」と思わせる仕掛けを編み込みましょう。
●キャラクターに深みを持たせる
短所や過去を掘り下げて設定し、より人間味を出せるように工夫をします。
章立てのアイデアについて
章構成の組み立てとして短篇と長編に分け、基本的な構成例を挙げて解説します。
短編小説の章構成(1~3章程度)
短編は意外にシンプルなほうが効果的です。
●導入 主人公と事件の提示
●展開 問題を深掘り・葛藤
●結末 解決・余韻
👉例: サスペンスであれば、初めに事件を勃発させる、ラブストーリーなら印象的な出会いを設定して、読者の関心を向かせる工夫をしましょう。
長編小説の章構成(10章以上)
長編では、章ごとに小さな目標を作ると、読者は飽きずに読んでもらえる。
●第1章:主人公と世界観の紹介(例:「普通の高校生が異世界へ」)
●第2~3章:物語の目的が明確になる(例:「王国を救う使命を課される」)
●第4~7章:中盤の試練と成長(例:「仲間との衝突」、「敵の強大さを知る」)
●第8~9章:クライマックスへ(例:「裏切りが発覚」「最終決戦」)
●第10章:結末と余韻(例:「平和が戻るが、主人公は…?」)
「小さなクライマックス」を章ごとに配置すると緊張感の維持ができ、読者の読む意欲は高まります。
ジャンル別の章立てのしかた
ファンタジー小説の章構成(冒険・異世界転生など)
👉例:「勇者の旅」(全10章構成)
●序章:日常の崩壊(例:「主人公が異世界に転生」)
●第1章:冒険への誘い(例:「王国の危機を知る」)
●第2章:仲間との出会い(例:「剣士・魔法使いと出会う」)
●第3章:最初の試練(例:「魔物との初戦」)
●第4章:強敵の登場(例:「四天王の1人に敗北」)
●第5章:挫折と成長(例:「師匠のもとで修行」)
●第6章:陰謀の発覚(例:「王国の裏切り者」)
●第7章:最終決戦への準備(例:「伝説の武器を入手」)
●第8章:クライマックス(例:「魔王との最終決戦」)
●最終章:結末と新たな旅立ち(例:「世界を救い、新たな冒険へ」)
●序盤は「世界観」と「目的」をはっきりさせる(読者が感情移入しやすい)
●中盤で強敵や陰謀を絡める(盛り上がるポイントを作る)
●終盤はスケールを大きくする(最終決戦は派手に)
参考作品:叙事詩的ファンタジー冒険映画「ロード・オブ・ザ・リング」、ライトノベル「転生したらスライムだった件」などの作品を参考にしてみてください。
ミステリー小説の章構成(推理・サスペンス)
👉例:「名探偵の事件簿」(全7章構成)
●第1章:事件の発生(例:「豪華客船で殺人事件が発生」)
●第2章:探偵登場&調査開始(例:「被害者の背景を調べる」)
●第3章:第一の容疑者(例:「怪しい証言が出るが、矛盾も」)
●第4章:新たな証拠(例:「被害者の日記が発見される」)
●第5章:どんでん返し(例:「容疑者Aにアリバイが成立」)
●第6章:真相の暴露(例:「探偵が全員を集めて推理を語る」)
●最終章:エピローグと余韻(例:「犯人の動機が明かされる」)
●冒頭で「謎」と「フック」を入れる(読者を引き込む)
●中盤で「容疑者のアリバイ崩し」や「どんでん返し」を入れる
●終盤は「論理的な推理」で読者を納得させる
参考作品:「シャーロック・ホームズ」、「名探偵コナン」、「アガサ・クリスティ作品」などが参考になりますので、チェックしてみてください。
ラブストーリーの章構成(恋愛・青春)
👉例:「すれ違いの恋」(全6章構成)
●第1章:運命の出会い(例:「主人公とヒロインが最悪の出会いをする」)
●第2章:気になる存在(例:「ケンカしながらも、お互い惹かれ始める」)
●第3章:距離が縮まる(例:「文化祭で2人の関係が深まる」)
●第4章:誤解とすれ違い(例:「ライバルの登場で誤解が生じる」)
●第5章:告白or別れの選択(例:「思い切って気持ちを伝える」)
●最終章:結末(ハッピーエンド or ビターエンド)
●「運命の出会い」を魅力的に描く(読者が応援したくなる関係性を作る)
●「すれ違い」を効果的に使う(誤解や葛藤を入れるとドラマ性が増す)
●「成長」を描く(主人公が恋を通して変わる)
参考作品:映画「君の名は。」、ドラマ「花より男子」、TⅤアニメ「四月は君の嘘」などをご覧になるとよい参考になります。
ホラー・サスペンス小説の章構成
👉例:「閉ざされた館の恐怖」(全5章構成)
●第1章:不穏な物語の始まり(例:「主人公たちが謎の洋館に足を踏み入れる」)
●第2章:最初の犠牲者(例:「一人が行方不明に」)
●第3章:真相の手がかり(例:「古い日記に恐ろしい事実が…」)
●第4章:クライマックス(例:「館の秘密が暴かれ、恐怖が頂点に」)
●最終章:結末(救いのないエンド or 逆転エンド)
●序盤で「不安感」を演出する(静かな怖さを大切に)
●中盤で「緊張と恐怖の波」を作る(犠牲者・手がかり・どんでん返し)
●終盤は「圧倒的な恐怖 or どんでん返し」で決める
参考作品:「リング」、「バイオハザード」、「呪怨」などに章構成のおもしろさが感じられます。
短編小説の章構成テンプレート
短編小説はシンプルで効果的な構成が求められます。以下のテンプレートを参考にしてみてください。
章 | 内容 |
---|---|
第1章(導入) | 主人公と事件を提示する。読者の興味を引くフックを用意。 |
第2章(展開) | 問題や葛藤を深掘りし、緊張感を高める。 |
第3章(結末) | 問題が解決し、余韻を残す結末を描く。 |
例: サスペンス作品の場合、最初に事件を勃発させ、次に主人公が真相に迫る過程を描き、最後にどんでん返しで締めくくるなどが効果的です。
長編小説の章構成テンプレート
長編小説では、各章ごとに小さな目標や山場を設定することで読者を飽きさせない工夫が必要です。
章 | 内容 |
---|---|
第1章 | 主人公と世界観の紹介。物語の目的や方向性を提示。 |
第2~3章 | 物語の目的が明確になる。主人公が課題や使命に気づく。 |
第4~7章 | 中盤の試練と成長。仲間との衝突や敵との対立など、緊張感を高める展開。 |
第8~9章 | クライマックスへ向けた準備と大きな試練。 |
第10章 | 結末と余韻。物語全体のテーマが明確になる終わり方。 |
例: ファンタジー作品では、序盤で異世界や冒険の目的を提示し、中盤で仲間との絆や敵との対立を描き、終盤で壮大な決戦と感動的な結末につなげると良いでしょう。
ジャンル別章構成テンプレート
ファンタジー小説
章 | 内容 |
---|---|
序章 | 日常の崩壊(例: 主人公が異世界に転生)。 |
第1~3章 | 冒険への誘いと仲間との出会い。最初の試練。 |
第4~7章 | 強敵や陰謀の発覚。主人公の挫折と成長。 |
第8~10章 | 最終決戦と新たな旅立ち。 |
ミステリー小説
章 | 内容 |
---|---|
第1章 | 事件の発生(例: 豪華客船で殺人事件)。 |
第2~4章 | 探偵登場、容疑者調査、新たな証拠発見。 |
第5~6章 | どんでん返しと真相暴露。論理的な推理で読者を納得させる展開。 |
最終章 | エピローグと余韻(例: 犯人の動機が明かされる)。 |
ラブストーリー
章 | 内容 |
---|---|
第1~2章 | 運命的な出会い(例: 主人公とヒロインが最悪の出会い)。徐々に惹かれ合う関係性。 |
第3~4章 | 距離が縮まるも誤解やすれ違いが生じる。 |
第5~6章 | >告白または別れという選択肢。最後はハッピーエンドまたはビターエンドで締めくくる。 |
参考資料・学べる物語の創作に関する書籍
●「プロだけが知っている 物語の書き方」(森沢明夫 著、飛鳥新社):質問形式でそれに著者が回答する形式で、要点やコツをつかむことができる。
●「シナリオセンター式 物語のつくり方」(新井一樹 著、日本実業出版社):物語の設定、登場人物、構成の立て方、シーンの描き方などを解説。物語の面白くない原因が整理できる。
●「SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く」(ジェシカ・ブロディ 著、島内哲朗 訳、フィルムアート社):映画脚本に使われるストーリー構造を描き出す手法をもとにして、小説の書き方バージョンに書き改められた内容となっています。

「SAVE THE CATの法則の法則で売れる小説を書く」は脚本について執筆のしかたを説いていますが、小説の勉強にも共通するものがあります。思いもよらない発想で繰り広げられる作品構成術が掲載されていて、多くの現役小説家もお勧めする内容のものですので、繰り返し読み返しています。図書館などで借りてぜひ読んでみてください
まとめ
物語の構成を理解し、三幕構成や起承転結といった基本的な手法を活用すると、短編から長編まで幅広い作品を組み立てることができます。まずは、プロットを作成しやすい形式に落とし込むことから始めましょう。
構成がしっかりと固まれば、物語の骨組みが完成します。その後は、シーンや状況をさらに具体的に設定し、物語全体の流れを調整していきます。 特に重要なのは、「読者が最後まで読みたくなる」を常に意識することです。
恐怖、不安、挫折といった感情を引き出す展開や、意外性のある章構成を取り入れることで、読者の心をつかむ魅力的なストーリーが生まれるでしょう。 物語づくりは試行錯誤の連続ですが、その過程も楽しみながら、自分だけの作品を完成させてください。
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