本屋の棚や平積み置き場に新刊で並ぶ小説の数は一日で200冊とも言われています。もし、本が出版されたとしたら、手に取って読んでもらうには、余程のインパクトやおもしろさがないと、目にも留めてくれない厳しい現状になっています。この記事では、現実を踏まえて少しでも多くの読者の目に留まるようなタイトルやテーマを決め、表現の工夫のしかたについてお話しします。
目立つタイトルのつけ方
小説家がネタをすべて整理し終えて、小説を書き進めていいるのだけども、まったくタイトルが思い浮かばないということをよく耳にします。
そのときの状況に応じて、書く前からパッとひらめいたり、いくら書き進めても決まらない場合が出てきます。でも、最終的に書き終わってから決めても問題はありません。
インスピレーションに任せて、これだと思うものにするのが一番だと思いますが、これはイイけど、あれはダメというような考え方もありませんし、長い短いについても最近はあまり関係がないようです。
自由にタイトルは決めて大丈夫ということですが、印象のよくないものや、ストーリーそのものを単純に想起させるものよりも、意表を突くものだったり、自分で言葉を二種類以上組み合わせた造語にするのも面白いと思います。
ストーリーを違う視点や意味で置き換えた言葉
【例1】
ある会社内の経営的混乱を描いた作品 ➡ 『精神錯乱』
女性の窃盗団の物語 ➡ 『酔いしれる美学』
確執のある母と子の物語 ➡ 『親子丼と不協和音』
世界の自然破滅を阻止した一人の天才児の伝記 ➡ 『ネイチャーズヒーロー』
世話好きでおせっかいな主人公の人生を描いた作品 ➡『勘違いの愛情』
……
二種類以上の造語(日本語でも外国語でもOK)
【例2】
東京純潔物語(地方から出て来た何も知らない青年の物語)
深層心理販売店(心理カウンセラーの物語)
苦難を排除する生き方指南(人生を楽しく生き抜く方法を伝授する物語)
マジック・ライブラリー(魔術+図書館)
エレクトリック・エモーション(電気的+感情)
……
(上記の例はタイトルの考え方の一例として挙げたもので、お勧めするタイトルという意味合いではありませんのでご了解ください。)
挙げればキリがないのですが、想像力を駆使してもどうしても思い浮かばないときは、一度、机から離れましょう。
気分転換にほかのことをしてみるのです。考えることをこの際に忘れて、本を読んだり、お煎餅をかじったり。お風呂に入っているときにだって、実はアイデアが浮かんでくることがあるのです。
あとは、実際に本屋に出かけてみて、小説のコーナーに並ぶ背表紙を参考にしたり、インターネット上で販売している書籍のタイトルを調査することです。剽窃はもちろん禁止ですが、イメージがグンと膨らむはずです。逆にあせる必要はありません。安易にサッと決めるよりは時間をかけていくつかアイデアを熟成させて、最良のタイトルが生まれることを願っています。
テーマとは……
物語の根底に常に存在するもので、読者に心で感じてもらうメッセージに該当するものです。伝えたいテーマで読者は学び、視野を広げることができるのです。タイトルや表面には直接現わさずに、現実に存在する媒体を通して描き出すようにします。
【例3】
愛情、友情、幸せと不幸、ねたみ、憎しみ、人間関係、人間の成長、人生の苦い経験の克服、人間のエゴ、心の豊かさ、物の本質、芸術の意味、道徳、社会の矛盾……等々
上記のように、物事について深く掘り下げた人の感情・思想などがテーマとして扱われます。初めから意識して、テーマを物語に潜ませることができる方はかなり優秀です。物語を綴っていく段階でテーマの存在というものが意識の中で徐々に培われ、生まれてくることが多いものです。
タイトルとテーマは今まで述べてきた違いがあります。それぞれを混同しないように自分のスタイルを作り上げていきましょう。
“趣味などの得意な分野”をテーマとして活かす
読者を「そうなんだ」とか「なるほど」と文章のなかで思わせるのはなかなかむずかしいものです。書くことを知っている方は、こうした点を踏まえて相手を納得させる文章を意識して書くようにしているのです。では、はじめて小説を書こうとする場合はどのように自分の作品を執筆したらよいのでしょう?
そのひとつに、仕事や生活のなかで何か真剣に取り組んでいること、つまり趣味やライフワークなどでしっかりとしたノウハウを持ち合わせ、日々楽しんでいることがあれば、それはきっと素晴らしい題材となるのではないでしょうか。
自分の知識を活用して書くということは、
●完成度が高く、かつ奥の深い内容に踏み込んだ小説が書ける。
●事前にプロットを考えておけば、自分の知識がしっかりしているため、割と行き詰まりような苦労は少なくなる。
というようなメリットがあります。しかし、実際にはそれほど単純ではなく、気分や体調によっては書き方の掘り下げの度合いや進度は一概ではありません。
「自分には海釣りの楽しさを他の人に伝えられる」、「園芸に特別な魅力を感じていて、人々に知ってもらいたい」、「心霊現象の研究をしているので、小説にしたら面白いのではないか」、「大相撲の厳しい世界を描いて、一般にもっと知ってもらいたい」等々。自分が書けそうだと思えるものであれば、どんなことでも大丈夫です。
ただし、ジャンルを確立させ、テーマをストーリーの中に潜ませるようにします。もちろん、主人公の人生の山・谷や話のおもしろさは創意工夫をする必要があります。
しっかりと書くのであれば、全体のストーリーの一部としてそのテーマを構成させるよりも、最後まで一貫したテーマを植え付けていきましょう。シリーズ化にして、長編小説にするのもよいと思います。
“人生経験”をテーマをとして活かす
特に趣味も好きなこともなく、ジャンルを何にしようか決めかねている場合は、それはそれで心配する必要はありません。今まで生きてこられて何を楽しく感じ、生きがいとされてきたのか、あるいは仕事でも生活上のことでもよいのですが、そのことに対して自分にプラスの感情がある場合は小説のネタに十分になり得ます。
例えば、趣味とまでいかないけど食べることが好きで、美味しそうなものを近くで食べ歩いていれば、”食べ歩き行脚”をテーマにして、主人公が諸国をめぐる物語も書けます。また、家族のなかで病人を抱えているような場合は、”介護を社会課題の一つとして喜びや苦難を描く”こともできましょう。
もし、自分にマイナスの感情があることについて書く場合、例えば会社の労働環境に問題があって、残業が絶えないような仕事に不満がある様子を物語にする場合は、それを全体のテーマに据えることは避けるべきです。不満や苦痛ばかりの盛り込まれた小説を読んだ読者は憤慨してしまいます。お話の一部の出来事として書くことは問題ないと思いますが、読者を最後まで幻滅させることをするような書き方はしないようにしましょう。
よく、社会風刺を狙いどころとした小説も見かけます。作者に余程の意図がない限りは、露骨な描写は後々批評され問題化してしまうのもおもしろくありませんので、初めのうちはあまりしないほうがよいかもしれません。
“表現手法”を自己の特質にしてテーマとして活用する
よくSNSで自分の情報発信をしていて投稿していても、「いいね」や「♡」のカウントが増えないことってあります。主張したい内容なのに、なかなか響いていかないのは何故なのでしょうか?
自分自身の伝えたいことをとにかく書き連ねたものの、読み手は関心がなかったり、文章に引っかかりが生じて伝わらなかったりすることがあります。一方的に伝えるだけでは読者はなかなか共感を呼びません。ここで、思い出していただきたいのが「小説家の心構えとあなたに合う小説ジャンル~書く意識と方向性~」の記事で示した川端康成氏の『小説の研究』からの引用です。ここに再掲してみます。
「文藝というものは、本質的には作者の側と読者の側と等分な、真の発見への意志を持っていなくては成り立たない」
読み手と作者自身に等分な真の発見を意図させる
読み手に一つのきっかけを作ってあげて、気づきを得でもらうとともに、作家も書くことによって、何かを知るのが文芸の域だということですね。
それだけ深みを帯びた人を響かせる文章を創作するには、やはり書いて身につけるものだと誰でも言います。実際に書いているうちに言葉の多様性を知ることができ、巧妙な言い回し、表現の言い換えなどの手法が徐々にわかるようになってきます。小説を継続的に書いている方は言葉の技術がおのずと身に付いてくるのです。
言葉を連ねる仕事をしている方は意外かもしれませんが、他の作家の作品や実用書を読んで、語彙による表現力を養うこともしています。どんな業界でも同じことですが、常に自分を錬磨することを忘れないという意識を持っています。どんなことでも、「陰での努力」の存在があるわけですね。
文章力が達者な方、または向上力が見られたと感じる方はぜひ、独自の文章力や言い回しを活用して前面に出すことも考えてみてください。自分にしかない独特の表現は読者の心をつかむものです。誰もしようとしないアイデアを執筆作業に取り入れると、グンと作品の中味が引き立ちます。
あとは独自のテーマを編み出して、それ一本で書いていくのもカラーを出せる有効な手段です。先程から趣味や人生経験を活かしてテーマを設定することをお勧めしていますが、すぐに発想して実現できるものとも限りません。
執筆を重ねていくうちに、ひとつのテーマに思い当ったり、はじめ何も意識していなかったテーマに突然遭遇したりもしますので、あせらないでまずはひとつの物語を書き進める気持ちを大切にしましょう。
半蔵が小説を書き始めた頃は、身近な出来事、言葉の面白さ、脱サラ、芸術、健康などをテーマにして、また自分が関心のあることや社会の課題として疑問に思ったことを短編にしてきました。しかし、なかなかオリジナル性を発揮することができずに、その後、方針を転換して、小さいときから携わっていたクラシック音楽を題材にして独自性を出すようにして短編・長編を書くようしました。それによってより物語に深く掘り起こすことが可能となり、完成度の高い作品を生み出すことができるようになりました。
以上の趣味、人生経験、テーマ・表現方法の3点の独自性をそれぞれ活かし、自分の書く方向性やスタンスをしっかり決めて執筆を始めてみてください。自分のなかで大きな土台となって、かつ強みとなるはずです。こうした基盤を固めておくと、何かの障害や挫折、スランプに陥った場合があっても、立ち直りも比較的早く苦労しないで済むかもしれません。
テーマを明確にしておくことで、進行のブレを最小限に食い止めることもできると思います。自分は何について書くのかを潜在意識に擦り込ませれば、一定のスピードも維持てきて自信も持てるようになります。
ではこの先はまた違う内容の話に入っていきます。一度で理解できない箇所は何度でも見直して前進していきましょう。
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